ヒルクライムレースにおけるネットタイム計測の問題点について

ネットタイム計測の罠

先日ボクシングの試合がありました。今までボクシングの試合などきちんと見ることもなかったのですが、最近自分自身が始めたこともあり少しだけ見てみることにしました。

その試合は世界タイトル戦だったのですが、日本人チャンピオンは試合に負けてしまいました。しかし、翌朝になってニュースを見てみると負けたはずのチャンピオンは防衛扱いになっておりそのままチャンピオンであると報道されていました。

このことの賛否についてはここでは置いておいて、私が気になったのはこのような、まるで「負けても勝ち」という現象をどこかでよく聞いているような気がしたのです。何だったかなと思ったのですが、それはロードバイクでのことでした。

最近はロードバイク人口が増えてきており、それに合わせるようにレースに参加する人も増加してきています。しかし、集団で高速域での走りをするロードレースやクリテリウムのようなレースでは常に落車などの危険が伴います。そこで脚力のない人でも各自が楽しみやすいヒルクライムレースというのが人気になっています。

ロードバイク人口、レース人口の増加に伴い、このヒルクライムレースも当然参加者が増えてきているのですが、先ほど出てきた「負けても勝ち」という現象が最近このヒルクライムでよく見かけるのです。

ロードバイクのレースでの勝負というのは一斉にスタートした人たちがしのぎを削り、お互いの脚力と脚質などをもとに駆け引きをして最終的に決められたゴール地点を先頭で駆け抜けた人が勝者になります。本質的には先頭の1人が勝ちでそれ以外はたとえ2位であろうとも負けになるのです。

しかし、最近のヒルクライムレースでは先頭でゴールした人が負けて、2位以下の人が勝ち、表彰台に上るということが増えてきているのです。

なぜこんなことが起こるのでしょうか。じつは最近は自転車に計測チップを付けて各自転車のタイムを機械が測定する「ネットタイム計測」を行うところが増えてきたことが関係しているのです。ネットタイム計測では各自転車に取り付けた計測チップをスタート地点通過時とゴール地点通過時に認識して、その自転車がそれぞれスタートからゴールまでどのくらいの時間をかけて走ったのかを測定します。

これは参加者が何人いようとも機械が自動で測定してくれるため間違いが起こりにくく、実に公平な判定方法のように思えます。しかし、これには落とし穴がありました。問題はスタート地点を通過するタイミングにありました。

参加人数の多いレースの場合、全員が横一列に並んで一斉にスタートするというのは不可能です。そのため、ズラズラと縦に並んでスタートすることになるのです。するとどうなるか。前が走り始めてもまだ後ろは動けない状態になります。そのためスタート地点で先頭に並んでいた人とそれ以降に並んでいた人では同じ集団で走っていてもスタート開始時間が違ってしまうことになるのです。

例えば先頭でスタートした人と20番手でスタートした人で3秒の差が生まれたときにその2人で優勝争いが起こるとどうなるか。同じ集団でスタートしたにも関わらず先頭の人は20番手スタートの人を3秒以上引き離してゴールしなければ優勝できなくなってしまうのです。つまり、ヒルクライムの登坂力が両者同じでゴールまで来て、最後の力を振り絞って先頭スタートの人が僅差で1位通過したとしてもネットタイム計測では20番手スタートの人よりも3秒も遅くゴールしたことになり2位扱いとなってしまいます。

このため、ネットタイム計測では後ろの方からスタートしたほうが圧倒的に有利であるというおかしな状況になってしまうのです。今年はついに全員がスタートしてから1分半経過してスタートした人が優勝したヒルクライムレースもありました(その人が強かったのもありますが)。

この本来負けた人が優勝になるというのが多すぎるくらいなのですが、ヒルクライムレースでも参加者も観戦者もすっきりしないでしょう。

このネットタイム計測が運営上の大きなメリットになっていることもわかりますが、運営者側がレースの本質を理解していない面もあるようです。例えばMt.富士ヒルクライムもネットタイム計測を採用していますが、その採用理由について次のように答えていたようです(参照)。

”2年前までに設けていたアスリートクラスと年代別クラスに分けたグロスタイム方式では、

アスリートクラスの入賞者が年代別クラスの入賞者よりタイムが悪いことが散見される問題があった。

不公平感を無くすことが課題となり、ネットタイム方式によるウェーブスタートを導入し、

表彰は全参加者をひっくるめて、総合1位と年代別で表彰する方式にすることで、是正を図ったとのこと。”

参照先の記事でも書かれていますが、あくまでもレースは駆け引きによって誰が一番先にゴールを通過するかを競い合うものであり、アスリートクラスがそれ以外のクラスよりも遅くなることは何ら珍しいことではありません。本当の意味で充実したレースを開催しないと未来のある若者たちの力も伸びなくなってしまうのではないかなと思いました。

などとボクシングの試合を見てロードレースのことを考えたりしてしまうあたり、自分は自転車バカなんだなと思いました。

(追記)ネットタイム計測がロードレースに適応していない根本的な理由についても書いています。ご覧になってください。

(追記2)ヒルクライムレースの例として挙げたMt.富士ヒルクライムですが、その後開催概要が変更されました(2015年時点)。

実際のゴール順と順位に食い違いが起こる「ネットタイム方式」では競技者から批判の声が上がったため、主催者選抜クラスというトップカテゴリーを新たに設けて主催者選抜クラスでのみ実際のゴール順が正確に反映される「グロスタイム方式」へと変更されています。

グロスタイムでは先頭の選手がスタート計測地点を通過すれば、参加者全員のタイム計測がスタートするという方式のため、後ろからスタートした場合に有利になるということが起こらなくなる仕組みです。

ただ、全カテゴリーで8500人が参加するMt.富士ヒルクライムでそれをすると参加人数の多いカテゴリーではスタートするまでに数分以上のタイムが経過しているなどと言うことも起こり得るため、妥協案としてトップカテゴリーのみでグロスタイム方式にしているのでしょう。