なぜネットタイム計測が正確な順位を反映しないのかについて

単純な勘違い

前回「ネットタイム方式のレースでは1位がの人が優勝にならないことがある」という話を書きました。簡単に要約すると「ネットタイム方式はおかしい」という根本的な問題があるため、「タイムと順位が正確に反映されていない」という問題が現れてくるのです。前回は分かりやすくその影響が出るヒルクライムレースを中心に話をすすめましたが、基本的にはヒルクライムレースに限らずロードレースでもこの問題が隠されています。とりあえず前回の記事を読んでいないという方はそちらを読んでからこの記事を読むことをおすすめします。

さて、1位の人が優勝にならないという結果自体は明らかにおかしいのですが、この話になると必ず出てくる返し文句として「全員を同じ条件で機械を使って正確なタイムを測っているんだから問題ないのではないか」というものがあります。機械が測る以上正確でだれにとってもフェアなやり方で、合理的ではないかということです。正直なところ、私も最初はこう思ってしまっていました。しかし、実際にはこれは間違っていました。

なぜこれが間違っているのかというのを見てみましょう。

まず最初に考えなければいけないのが「レースとは何か」についてです。わかりやすく一番簡単な「かけっこ」の話をしましょう。

複数人数でかけっこをして競争する場合、「よーいドン」という合図のもとに全員が走り始め誰が一番早く決められたゴール地点にまでたどり着くかを競います。これが「レース」の本質であり、基本的にはロードバイクを使うロードレースであっても変わりません。

この合図とともにゴールまで走る勝負においてだれが勝ちであるかを決めるのは「順位」にほかなりません。一番速くゴール地点にまで走れたものが優勝なのです。つまりこれはどういうことなのかというと「レースの順位を決めるのに走った時間(タイム)を測る必要は一切ない」ということです。そもそもの話としてレースをするのにタイム測定は不要なのです。

では、なぜタイムが取り上げられたりするのでしょうか。それは順位によってタイム差がつくからになります。みんなが同じ合図のもとにスタートしてゴールまで走った場合、一番速い1位の人が一番短い時間で走り切ったことになり、2位がその次に時間が短く、3位・4位と続いていき、ラストにゴールした人が一番時間がかかることになるからです。この場合はタイムの短かった順に並べればそれが順位と同じになります。

こう書くとならばネットタイム方式で測ったタイムを順位として扱ってもいいじゃないかと思ってしまいます。しかし、ここに落とし穴が潜んでいるのです。

何が違うのかよく見てみましょう。先ほどの例のようにかけっこをはじめとしたレースにおいては合図のあった時間、すなわち「スタート開始時刻」から「「ゴール地点到達時刻」までを測ります。よーいドンからゴールに着くまでの時間ですね。

しかし、ネットタイム方式では自転車のフレームなどに計測チップを取り付けてコース上に設置されたセンサーを通過した時刻を測定します。つまり、「スタート地点通過時刻」から「ゴール地点到達時刻」を測っているのです。

上記の両者は一見同じものを測っているように思いますが、「スタート開始時刻」と「スタート地点通過時刻」という違いが存在します(少人数のかけっこでは差が出にくいですが、人数の多いマラソンなどをイメージするのがいいかもしれません)。つまり、ネットタイム方式で測っているタイムというのは本来のレースタイムとは全く違う別のものを測定していることになるのです。全く関係のないタイムを測って、それを短いタイム潤に並べていっても順位と同じにはなりません。

つまり、本来使うべきものさしとは全く別のものでレースの順位を決めてしまっているため、現在行われているネットタイム計測は「合理的」でもなければ、「正確なレースタイム」でもなく、それによってレースの勝利条件が各人バラバラになるため「フェア」ではなくなります。

たとえ話

以上のように明らかに違うものさしを使っているのですが、いかんせん同じように「タイム」という言葉がついているため混乱しやすいかもしれません。そこで、別の例で違うものさしを使った場合のたとえ話でもしてみましょう。

例えば100人の人間がいたとして、この100人でだれが一番体重が軽いかという勝負をするとしましょう。普通ならばどうやって勝負をつけるでしょうか。一般的で間違いがないのは体重計を使って測ることでしょう。

しかし、誰かが言いました。「体重が軽い人はみんな身長が低い。体重計など使わなくても身長が低い順に並べば誰が一番軽いかわかるよ」と。

これは正しいでしょうか。確かに体重が軽ければ身長が低いケースが多いでしょうが、実際には違うことが多いでしょう。これは本来体重を測って勝負するべきところで、全く関係のない、しかし何となく関係ありそうな身長という別のものさしを使って勝負したことによるものです。

体重勝負というのはあまり日常的ではないため、ピンと来ないかもしれません。そこで今度は商売で競い合ってみましょう。100人の人間が一定期間内に誰が一番儲けを上げられるか勝負したとしましょう。

一定期間内にそれぞれが思い思いのものを売って、期間終了後にそれぞれの財布の中身を見せ合いました。結果、Aくんが一番たくさんのものを売ってお金を手にしており、優勝はAくんに決定しました。

これは正しいでしょうか。間違っていますね。みんなで財布の中身を見せ合うのはいいですが、これはあくまでも「売上」です。この勝負は誰が一番儲けたかを勝負しているのです。つまり、この売上から材料費や人件費などをひいた「利益」を勝負の基準としなければいけなかったのです。実際にはAくんは売上がたくさんあってもかかった経費が大きく利益が少なかったということも考えられます。

このようにたとえ話にしてしまうと誰にでもわかることですが、勝負において勝敗を判断すべき基準が違えばそれは全く別の順位を現すことになってしまうのです。ロードレースのネットタイム方式の場合は「タイム」という言葉が入ってしまっているため、まるで順位と同じものさしを使っていると錯覚してしまいますが、レースとは別の「タイム」を測っているため何の意味もない数字なのです。

解決策

ここまで書けばこの話はおしまいなのですが、ここで終わってしまうと必ず次のようなことを言われるでしょう。

「ごちゃごちゃ言うならお前がレース開催してみろよ」です。

さすがに私がレースを開催することはできないため、思いつく解決策でも書いておきましょう。

まず、測るべきものさしが違うのであればそれをなおせば済むだけのことです。つまりはきちんと順位をとることです。

もっともシンプルで原始的な方法としてはゴール地点に審判を置いておく方法です。しかし、これは人手がかかったり、参加人数が多い(数百人~千人規模)レースだと全員の順位を目視で確認するのは難しいかもしれません。

そこで現在使われているネットタイム方式での計測チップで正確なタイムを測れるようにすればいいという案もあるでしょう。具体的には同じカテゴリーでレースをする選手はスタート地点通過時ではなく、スタート開始時刻にタイム計測を開始すればよいのです。これならば計測したタイムは順位と同じものさしとなり無用な混乱を避けられます。技術的に難しいのかどうか私にはわからないのですが、同一カテゴリーの先頭の選手が計測された時点をスタート開始時刻に設定できればいいわけです。

もしそれが難しいというのであれば今まで通り間違ったタイムを測りつつも、ゴールした順番を順位として認定すれば解決します。この方法では順位とタイムにギャップが生じてしまうケースも出てしまいますが、あくまでも優先すべきは「順位」でタイムは次回参加への参考記録として参加者に受け取ってもらうように周知していく必要があるでしょう。

質問コーナー

以上が現在行われているネットタイム計測の根本的な問題点とそれに対する解決策です。ついでにコメントなどの内容の話をQ&Aとして書いておきましょう。

Q1.ツールなどのプロのレースでもタイムトライアルはネットタイム計測を採用しているんだからいいのでは?

A.タイムトライアルではあくまでも「スタート地点からゴール地点までの走行時間」を測って競っています。集団走行やドラフティングは禁止されており、スタートもバラバラです。この特性から通常のロードレースやヒルクライムレースとは違い、ネットタイム計測のタイム差がそのまま順位と同じため全く問題にはなりません。

Q2.参加人数が多いと全員が納得できるスタート位置につけないのでは?

A.確かにレースで上位を狙う人は先頭に並べるように早めにスタート地点に行く必要が出てきます。逆にいうと勝つ気が無ければ後ろに並んでもかまわないということになります。現在のネットタイム計測では先頭ではなくあえて有力選手の集団から遅れない程度に後ろの方に並ばないと損をする仕組みになっており、こちらのほうが害が大きいと言えます。

Q3.レース運営側が最初からネットタイム計測を採用すると言っているのだから、レース参加者は従えばいいだけでは?

A.この記事で説明した通り、順位を決めるべきものさしを運営側が取り違えているため、言ってしまえば「レースが成り立っていない」状態になってしまっているのが問題です。運営側がいくら事前に通達を出していても間違っていることは間違っているといわなければいけません。

Q4.ネットタイム計測採用のヒルクライムレースで集団後方から出るのが絶対に有利とはいえないはず。

A.これは前回の記事の書き方が悪く誤解を生んだ面と言えます。私が言いたいのはあくまでもネットタイム計測が順位を反映していないということであり、その影響をもろに受け順位が狂いやすいのがヒルクライムレースであり、その現象はスタート位置によって引き起こされるということです。後ろからスタートしたら有利だからそうしたほうがいいといったたぐいの話ではありません。

Q5.レースに出たこともない人間が勝手なことを言うな。出てから言え。

A.レース経験がなくともわかる話であり、私がレースに出てもでなくても現在のネットタイム計測の問題は変わりません。また、このネットタイム計測がおかしいという意見はそもそも強豪選手こそが指摘しています。順位に影響がでて一番困るのは優勝争いをできる実力者であり、ぶっちゃけた話、表彰台や入賞すらねらえない人間にとっては順位が変わってしまうネットタイム計測でも問題が感じられないという面があります。

一番問題なのはまさにこの点で100人参加のレースでも実際に表彰台争いをするのは5~10人程度でしょう。そうすると残りの90%以上の人間にとってはネットタイム計測でもかまわないわけです。ネットタイム計測が明らかに間違っているにも関わらずなくならないのは、正しいことを言っているのは少数の実力者やベテランライダーで残りの大多数が「ネットタイム計測のほうがフェアで合理的で正確なタイムが分かるからいいじゃないか」と間違った認識をしているからです。

かなり長くなりましたが、ネットタイム計測そのものが悪いわけではなくやり方が間違っているという話でした。運営の手間を省きつつ、いいレースが開催されることを祈っています。